<江戸グルメ旅> 人形町甘酒横丁

 江戸には旨い物が沢山あった。江戸がしばらくして、江戸として自信もち始めた頃、江戸っ子は「江戸前」を名乗るようになった。江戸前とは勿論江戸城の前、将軍様御膝元の事であるが、また一方、上方の文化から抜け出し、江戸独自の考え方、流儀も指した。「宵越しの銭はもたねぇ」いや、残念ながらもてねぇくせに、それでも見栄かカッコからか、明日の生活に心配がいらなかった(当人たちがそう考えているだけだが)せいか所得の割には、現代と同様に、食物(口に関しては)贅沢をした。初鰹に始まって野菜でも、初物はバカ値がついて売れた。初と名がつけば何でも高値で捌けた。「お初」という娘が、他の娘より早く嫁いだかどうかは、定かではないが。かっこしいの江戸っ子のなせる技である。この事が結果的に、江戸の市場を活性化し潤していった。

 食べ物には旬がある。人間様にも売れどきがある。人間様は頭を使えばいくらでもつぶしがきき、春夏秋冬朝昼晩、一生を通じて売れどき、買いどきとなり、それでもとなると、黄昏どきとなる。秋のしじまもゆったり、まったりとしていい。処が食べ物はそうはいかない。旬をのがすと青いか、熟れすぎるかで、余り食べれたものではない。旬の物を旬の時期に食べるからこそ、余り人間が手を加えなくとも旨いのである。食べ物にも食べどき、人間様もおさまりどき、どちらも「どき」がある。これをのがすとどちらも「とう」がたつという。さあ「ここのつ」のうちに、食べ頃をさがして江戸へ出かけてみよう。

 冬の寒い日に、ふうふういいながら、麹と生姜が入り混じった臭いがする「甘酒」を飲むのは、また格別である。甘酒といえば「人形町甘酒横丁」。横丁に入る右角に冬は甘酒、夏はカキ氷を売っていた尾張屋という店があった。この横丁には今でも、江戸風情の店が多い。右角から進むと、北海道帯広の大納言を使った鯛焼き屋、竹ざる屋、手焼き煎餅の店、昔ながらのけん玉やお手玉の玩具店、この先は浜町川跡の緑道で、弁慶が勧進帳を握り、見得をきっている。ここまでが「甘酒横丁」ここから先、明治座までは「明治座通り」となる。横丁左側にはつづら屋、三味線屋と続き、助六でお馴染みのお稲荷さんの店がある。また、人形町通りの西側には、大正11年創業の喫茶去がある。喫茶去とは、古代中国唐の時代の、禅僧趙州の禅語で「お茶を召し上がれ」という意味。人形町には古い町の割には、西洋料理の店も多く、屋号、店名も〇〇軒、△△亭とかレトロな名称が多く、構えもクラシックであるのが多い。

 この町の歴史は、江戸初期、各所にあった廓をひとつにまとめた「元吉原」が誕生、次いで中橋南地から移転してきた、中村座や市村座が「江戸歌舞伎」の櫓をあげ、「寛政の改革」で新両替町から「銀座」が移転、近くの「魚河岸」も加え「朝、昼、晩(新吉原)」と、稼いだ土地であった。維新後は水天宮、明治座、大観音寺、東証などで、活気あふれる町となったが、人形町と正式名称となるのは、昭和八年になってからである。

 さてそろそろ甘酒を頂くとしょう。現代は夏はカキ氷、冬は甘酒と、何のためらいもなくそう思っている人達が多いが、江戸では夏の暑い日に、ふうふう熱い甘酒を、汗ダクになって挑戦した。麹の入った発酵飲料である甘酒は、じんわりと体の芯まで温め、夏の疲れた胃を優しく癒し、加えて生姜の入った甘酒は、発汗作用を促し、汗を多量にかくことによって、その後の清涼感を求めた。逆もまた真也。理にかなった消夏法であった。

 「甘酒は 照る六月に 煮商ひ」

 江戸の棒振り甘酒売りは、甘酒の入った真鍮の釜を、火種の入った箱にかけ、60℃に温めながら売り歩いた。昔から「味は親切である」という、ひと手間加えたものが、その本来の味をひきたてる。暖かい物は温かく、冷たい物は冷やして、提供するのが親切であり、客は喜ぶ。処が持ち帰りとなるとそうもいかない。鯛焼きは、冬の冷えた体にはもってこいだが、家で同じように食べようとしたらそうはいかない。保存のため冷蔵庫にいた鯛焼きを、先ず、ラップをしてレンジでチン、このままだと皮がベタつくから、次はラップをはがしてトースターで湿気をとばす。この2段階を経て店と同じような感触が味わえる。ついでながら、粕漬けも調理が難しい食材であるが、先ず軽く表面の粕を水で落とし、ペーパータオルで、切り身の水分を優しく、しっかり吸い取り、火は強火ではなく、中火でじっくりと焼く。じっくり、ゆったりという仕草は、江戸っ子には余りむかない仕事である。梅雨が明けると、かぁとする夏本番となる。せっかちで多少ナイーブな性質(たち)のため、胃が余り丈夫でなかったであろう江戸っ子達は、晒しの腹巻と熱い甘酒で、弱りがちの胃を護り、湿気の多い、蒸し暑い江戸の夏を乗り切った。「甘酒は 冬のもんだと 誰(だ)がゆうた」









 

江戸純情派「チーム江戸」

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