2 江戸っ子のライフスタイル
江戸っ子のライフスタイルの基本は「三ない主義」先ずは生活空間が狭く火事が多い為、モノを 持っても無駄、つまり「モノは持たない」。世間様との付き合いが多くなると出費もかさむし疲れ るから、「出世は望まない」。いろいろ考えても余計な心配をしても、結果は決まっているから「あ くせくと悩まない」。また、暮らしのルールとして、全国各地から江戸で生活を共にしている隣人同朋には、お前さん 何処の在から?と、生国は問わない。現代でも女性に年齢を聞いたらいっぺんに嫌われるが、江戸 の頃もそうであった。八や熊でさえその位の気配りはした。江戸町民の60%が地方出の人間。そ の多くがいろいろ事情があっての江戸暮らし、故にお互いの過去や家族については深く詮索しない 優しい気配りを持っていた。現代人の探り屋根性とは気持ちの持ちようが違う。江戸の町が暖かい 訳がここにも見つかる。
江戸時代は儒学が教学として公的に奨励され、人々の精神生活に多大な影響を与えた。文教政策の基盤にしたひとつの理由として、儒学は根本的に人間死後の世界に関心を示さない考え方がある。 一向一揆や島原の乱等、超越的信仰による戦いに手をやいた経験がある幕府は、世内的な性格をも つ儒学を文治の基本とした。従って、風俗取締の底流でも身分相応の行動が好ましいとされ、祝事 以外の豪華な食事の制限や、日常の着衣は木綿とする等の奢侈取締令がしばしば発布された。この 様な日常の風俗ばかりでなく、次第に歌舞伎興行や遊女達がその主たる取締の対象となっていく。 幕府は身分制度を崩壊させるおそれのある、分限を超えた庶民の行為を厳しく取り締まった。こうした幕府の方針や儒学の教えに構わず、元来人間は束縛、規制を嫌う生物、ましてや江戸っ 子は右と云えば左、左と云えば右と云う人類、束縛されない、ああせい、こうせいではない世界の 生活ぶりの一端をみてみよう。概して荻生徂徠の江戸観が江戸っ子達の生活観を端的に表現している。「隣ニ構ワズ セワシキ 風俗」他人様に干渉せず、されず、しかもいつも何か動いている、動いていないと落ち着かない自 分がそこにいる。現代人とよく似ている。「 梅にしたがい 桜になびく 其の日其の日の凬次第 虚(うそ)も実(まこと)も義理もなし」 自然の移ろいに従い、何の束縛も受けない自由闊達な生き方がそこにあり、明日は明日の風が吹く的人生を生きている。また「 寝て待てど 暮らせどさらに 何事も なきてこそ 人の 果報なりけれ 」と 大田蜀山人は云う。便りのない便りはいい便り、何の変わった事もなく、いさかいも無く、日々 平安に暮らせる毎日はそうはない。毎日必ず胃に良くない言葉、行動に遭遇する。現在は人が多い 分だけストレスが貯まる。一番貯まらないのは人間の絆と金である。
「楽しみは春の桜と秋の月 夫婦仲よく 三度喰う飯」 人生最高の極みである。四季折々の自然を愛で、長年連れ添った夫婦の会話のいらない生活、そ の生活でも三度の御飯にそれなりの旬の物が食卓に上り、二人で庭先の花を眺めながら、時には屋 根にあたる雨の音を聞きながら静かに食べるのに会話はいらない。「母さんや そろそろ晩御飯にしますかね」「今日は何がいいですか? お父さん」「何でもいい ですよ ホラあるもんで」優しい父としっかり者の母がいました。現代ではテレビが 会話代わりメニューは限られ「 何食べる 何が出来るか 先に言え」 <サラ川>となる。でもまだ二人で食べる家庭はいい方である。そのうち帰っても奥様は留守、仕方なく自分 で作つて食べる事になる。「 晩御飯 帰る前には 電話をし」「 ほめ言葉 同じメニューが 三度でる」こうなると落語の世界にもならなくなる。沢庵と梅干しの茶漬けでも好きな二人で食べれば安上が りなデナーとなる。何事もなく時の流れに身をまかせ、静かに毎日を暮らすのも人生なら、自分の 好きな事に打ち込んで、豊かに張りのある毎日を過ごすのもまた人生である。
広辞林によると、①道楽とは芸能その他の道に楽しむこと。着道楽、食道楽、 旅道楽等はまだ可愛い。問題なのは次である。②本来の仕事を忘れて、それ以外の事にふけり楽し むこと、よくない遊興即ち酒色、博打等にふけること、身もちのよくない者、なまけ者とる。 江戸も幕末になると音曲ブーム、三味線のお師匠さんは各町内に一人はいた。裕福な家の娘はた しなみのひとつとして、手習所の後は三味線、琴、踊りなどの稽古事を七~八歳頃から習い、その のち武家に奉公、行儀作法を学び良縁を狙うのが女子の幸せの道であった。男性は習うよりも師匠 目当てか、小唄、端唄、長唄等に通った。この道楽の目的は元芸者等が三味線の師匠になる事が多 く、お弟子さん達も吉原でもてる通人になりたい、師匠と話をして口説きたい、芝居好きと自慢 したい、唄が上手くなりたい、等それぞれの事情をかかえて通った。こうした音曲の他、歌舞伎の名場面の声色(ものまね)を教えたり、あくびの上手な至難(仕 方)等も教えている。やはりいつの世も、もてたい男は沢山いたとみえ、その為の教室(稽古場)で 男らしい蕎麦の食べ方、イケてる煙草のすい方等の、身のこなし方を所作指南した。もてる男になる 為に今も昔も大変だったのが伺える。ついでに男の中身も磨く指南もしてくれると大変ありがたい と思うが。人生いろいろ、どうやっても一生は一生、せめて元気で長生きをと願うのは皆一様の思いである。 そこで長生きする秘訣とは江戸的に考えると「長生きは 今日やる事を 明日やる」「 長生きは あなたまかせの おらが春 」となる。
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