第9章 江戸の食文化 ①初物喰い
江戸っ子の習性として「初物喰い」がある。初物を食べると七五日長生きすると云う俗信がある。 特に初鰹はその十倍七五〇日。人生五〇年の時代、三六五×二=七三〇日、二年と二〇日寿命が延 びるとなれば、食べずにはいられない。これは表向きの建前、その動機は単なる江戸っ子の見栄と 意地である。初物喰いは長生きの為の投資か、単なる自己満足か、秤にかけなくても答えは簡単である。
初物と云う物は旬ではない、魚、野菜、果物がまだ食べ頃ではない、出廻っていない発育途上の 物を指し、これらを食べても決して旨くない。物事にはすべからく「頃」がある。見頃、食べ頃、 切れ頃、おっとこれは人間社会だ。その「頃」をはずすと、花は綺麗でないし感動もしない。昔は 「花の命は短くて」が相場であったが、昨今では「咲いてから盛りの長い姥桜」の時代になった。 魚では脂がのっていないから、煮ても焼いても旨くない。ましてや刺身になんかしようものなら、 身は堅い、パサパサしている代物になる。加えて多量に市場に出廻っていないから、江戸初期の男 女比と同じく、需給バランスがタイト、需が多く給がレアなのである。従って値も高い。では何故 この様な商品を自分の給金に反した高い商品を買うのか? 理由は簡単。人より早く、人に先駆けて食べた事を自慢する為である。江戸っ子の見栄と格好しいがそれをさせるのである。
「初ものが 来ると持 仏(じぶつ)が ちんと鳴り」
0コメント