「姫たちの落城」第6章 信長正室濃姫(帰蝶)と稲葉山城ⅰ
「美濃を制する者は天下を制す」稲葉山城は東海道と東山道(中山道)を押える要衝で、戦国時代を通じて何度も合戦の舞台となった。創築は鎌倉時代、幕府政所執事であった二階堂氏が美濃国井之口稲葉山(岐阜県金華山)に要害を構えた事に始まる。天文8年(1539)斎藤道三がここを拠点として本格的に整備し美濃一国を統一、その後義龍から義興に代替わり、永禄10年(1567)城は織田信長によって攻略され義興は追放された。信長は井之口と呼ばれていた城と町を岐阜と改め、小牧山城から稲葉山城へ拠点を移し、楽市楽座を開き、安土城へ移るまでの約10年間この城を居城とした。宣教師フロイスは「まるでバビロンのような賑わいだ」と伝えている。信長の最終的な目的は、石山本願寺を倒した後に交易に利便な大坂に城を構え、この地より「天下布武」を唱える計画であった。
稲葉山城は岐阜市の中央部を流れる長良川のほとり標高329mの金華山頂上に建ち、稲葉山そのものが天然の要害として機能していた戦国時代の山城である。大永5年(1525)協力関係にあった美濃守護代斉藤氏家臣長井長弘を殺害、長井新左衛門尉(道三父)は、稲葉山を乗っ取った。天文2年(1533)父新左衛門が没すると、その子新九郎、美濃のマムシと呼ばれた斉藤道三が跡を継ぎ城主となった。戦国時代下剋上により美濃一国を制したのは、道三親子2代に渡る「国盗り物語」の成果である。道三は幼少期学僧であったが、のち還俗して油売りとなり、美濃の守護職土岐氏の家臣長井長弘に仕えるようになり武士となった。天文8年、道三は山頂に城を築き、ここより戦国大名の稲葉山城が始まる。同10年道三はは守護職の土岐氏の大桑城を攻め追放した。同15年(1546)土岐氏側と和議が成立、この条件は将来兄の息子頼充に家督を譲るという点と、道三の娘濃姫12歳を頼充に嫁がせるというものであった。ところが翌16年、夫の頼充は24歳の若さで死去、濃姫は実家に戻った。同年隣国尾張の織田信秀(信長父)が、この機に乗じて追放された土岐氏の家臣らと共に、道三を攻略してきたが、逆に信秀は大敗を期してしまうことになる。「加納山口の戦い」である。信秀は道三と和議が成立させ、出戻っていた濃姫15歳と信長16歳の婚姻が成立した。外患を払った天文23年(1554)、道三は家督を嫡男義龍に譲るが、2人は本来仲が悪かったため翌24年(弘治元年)合戦となる。道三につく者が少なかったため奮戦虚しく討ち死に、世に云う「長良川の戦い」である。すぐさま娘婿の信長は援軍に駆けつけたが、道三が討ち死にしたと伝えられ余儀なく撤退した。討ち死にする直前に出された道三の遺言状がある。「婿(信長)に美濃一国を譲り渡す」と云うものである。この書状は京都妙見寺と大坂城天守閣に存在するが、いずれも写しか偽文章とする説もある。永禄10年(1567)信長は、若くして病没した義龍の跡を継いだ義興を攻略、本拠地を小牧山城から稲葉山城に移転した。井之口と呼ばれていた城と町を、古代中国「周」の国の文王が、岐山によって天下を平定した縁起と孔子ゆかりの地曲阜を踏まえ、この地を「岐阜」と命名した。この頃から信長は「天下布武」の朱印を用いるようになり、本格的に天下統一を目指すようになっていく。信長は国盗りの第1目標を美濃に置き、美濃三人衆とよばれた重臣を凋落で抱き込んでいた。
稲葉山城の城主は戦国時代、代替わりを重ねて道三から信長、信長以降は池田輝政、豊臣秀勝、織田秀信(信長嫡孫、幼名三法師)と代わっていく。「関ケ原の戦い」の慶長5年(1600)当時岐阜城を守っていた秀信は、当初会津に従軍する予定であったが、三成の挙兵に呼応して西軍に与した。西軍は岐阜城を拠点にして、左手に犬山城、右手に竹ヶ城を配して東軍に備えた。このため清須城に終結した東軍の最初の攻撃目標となった。「関ケ原の戦い」の前哨戦ともいえる「岐阜城の戦い」で、東軍の池田輝政が木曽川上流から、下流からは福島正則らに攻められ落城、翌6年家康によって廃城となった。戦いの後、家康は家臣奥平信昌を岐阜に10万石を与え入封させ、平城である加納城を築かせた。戦国時代が終焉をむかえ、また戦闘員の集団体制や鉄砲の多用化など戦法の転換などにより、山城では大規模な改修が難しくなったための結論であった。現在岐阜城へはJR岐阜から約5分毎に出るバス便で約15分、岐阜公園若しくは歴史博物館前で下車、ロープウエイで山頂駅まで約3分、ここより天守閣まで徒歩約8分で着く。山頂から北西側には長良川、鈴鹿山脈、北東側に飛騨山脈の乗鞍岳、木曽山脈の御嶽山を臨む広大なパノラマが広がっている。この他大手道を登る「七曲道」徒歩約60分、西側斜面からの「百曲道」約徒歩40分などのハイキングコースも整備されている。次回はいよいよ濃姫(帰蝶)と信長「安土城」の物語です。 <チーム江戸>
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