ハレの日の色 夏も近づく<初夏編>②七夕・朝顔・鬼灯
7月7日は「七夕祭り」、仙台では秋田の竿灯、山形の花笠、青森や弘前のねぶた祭りと同じく、8月に開催される。我が国においては飛鳥時代に始まったとされ、「棚機」とも表記され、織姫の伝説にもとづいた「五節句」のひとつである。織物に使われる絹は、中國伝説の皇帝・黄帝の妃が、蛾が繭を作っているのを見て持ち帰り、遊んでいるうちに湯の中に落としてしまった。それを箸ですくおうとした処、1本の糸状のものが箸に引っ掛かり、たぐる事が出来たという。これが絹の誕生だといわれている。野生の蚕は、山繭(天蚕)とか作蚕と呼ばれ、それらのいろは緑色か薄茶色をしている。やがて蚕を屋根の下、桑の葉で育てるようになって、糸は純白のの柔らかな絹糸になっていった。こうして改良された絹は、BC3thに中國全土を統一した秦の始皇帝によって、より目覚ましい技術へと改良され、当時のローマ人が「セリカ」と呼んだ絹は、やがて万里の長城を越え天山山脈を回り、匈奴から桜蘭へと、西へ西へと運ばれていった。「シルクロード」である。古代中国において、絹糸の生産は、人間の生活、衣食住の面において、衣部門の絹糸の生産と織は女性、食部門の農業・狩猟などの担当を男性と分担をもたらした。こうして生まれたのが織女星と牽牛星が、年に一度の天の河で出会う七夕伝説である。朱、緑、黄色、白、黒の五色の短冊に、機織りや書道が上手くなるように祈るのが「乞巧奠」の儀式である。そのように成立していったのが七夕祭りである。短冊の五色は古代中国における「陰陽五行説」に基づくもので、「朱」は、もともと天然の硫化水素から作られた赤色顔料の呼び名であった。シルクロードの東の終着地日本においても、「万葉集」には凡そ百首近い七夕の歌が詠まれ、星への願いも織物、裁縫の上達だけにとどまらず、学問の向上、恋愛成就など幅広い分野にわたっていった。この七夕祭りに合わせて開かれるのが「朝顔市」。毎年7月6日から8日までの3日間市が立ち、入谷の鬼子母神の朝顔市が有名である。朝顔は、遣唐使によって薬用植物として渡来、江戸時代になると変化咲き朝顔が人気をよんだ。この花の別名は、七夕の牽牛星(彦星)に因み、牽牛花という。
次いで毎年7月9日、10日の両日、浅草浅草寺で開かれるのは「ほおずき(鬼灯)市」である。浅草寺の本尊、観音様の縁日のうち、多くの功徳が授かる特異日が、「四万六千日=千日詣」である。この日にお参りすると、4万6千日分、即ち人間の寿命の限界とされる凡そ126年分をお参りした功徳が授かる。横着なくせに見返りを欲しがる人間どもに、仏様が考えあぐねた回答がこれである。ほおずきの原産地は東南アジア。ナス科の多年草で、薬草として水で飲むと、大人は癪を切り、子供は虫の気を去る効能がある。ほおずきは初夏に淡いクリーム色の花を咲かせ,次第にガクの部分が発達、果実を包み込み、緑色したガクはお盆の頃熟し、鮮やかな丸い赤い実をつける。この赤い実の色は「黄丹」と呼ばれる赤色で、「鉛丹」の別名。紅花と梔子(くちなし)によって染められたオレンジ色が、鉛丹の色と似ていることからこの名がつけられた。奈良時代、皇太子の礼服と定められた以来、現在も使われている。日本では赤色の染料として、カイガラムシの分泌液から取る動物性のものと、茜、紅花、蘇芳などの三種からとる植物性のものが使われてきた。茜で染めたものを「緋色」と呼ぶ。元来、「赤と朱(あけ)」は、茜と灰汁で染めた強い黄色を帯びた赤色である。江戸時代、茜染めの技法は難しかったため、先ず梔子の黄色で下染めし、次の行程で蘇芳を使って染め上げていった。これを「紅緋」といい、後に「緋色」と呼ばれるようになる。類語に赤、紅(べに、くれない)、緋、朱、丹、茜色、小豆色、臙脂(えんじ)色などがある。「臙脂色」は、古代中國の国家「燕」で使われていた、赤い染料の色に由来するといわれてきた。このワインカラー色が知性や品格のイメージアップを連想させるためか、ハレの日の夏の高校野球、甲子園出場校のユニフォームの他に、六大学や東都大学でも、スクールカラーと呼ばれ、各高校、大学のシンボルカラーとして取り入れられている色である。
八月朔日は、江戸城登城の大名たちや、新吉原の花魁たちも白無垢で身を固める「八朔」である。旧暦5月28日から8月28日までは「両国川開き」。現在花火の色は彩とりどりで鮮やかであるが、その当時は打ち上げ花火で、黄味をおびた赤色であった。この花火、八代吉宗の享保18年(1733)、飢饉とコレラによる犠牲者の魂を弔い、悪疫退散を祈願して始まり、両国橋界隈は屋形船や屋根船で、隅田川が埋め尽くされた。「この人数 舟なればこその 涼哉」其角。地方では旧盆、8月13日は「迎え火」、16日は「送り火」。盆踊りは先祖の霊を迎え、送ることから「魂祭り」ともいわれ、死者を供養する、念仏踊りが始まりとされ、本来は7月13日から16日までの、満月の月明りの下で踊られた。「月へなげ 草にすてたる 踊りの手」 江戸も夏のイベントが終わると、そろそろ「目にさやかに見えねども」の秋凬が吹き始める。自然界も人間界も淋しい季節となる。
0コメント