江戸の御隠居様の光と影③
さて、御隠居さまも加わった、江戸時代の文化活動について見てみよう。古くから江戸の下町に住んでいた江戸っ子たちに、全国から流入してきた長屋住まいの人たちも加わり、貧富を問わず、歌舞伎、落語などを楽しみ、所謂、物見遊山といわれる、近所の寺社の参詣や名所巡りが楽しまれる様になっていく。こうした行動文化が発展していったのが、江戸後期である。地域住民は色々な文化活動から、その「知」をを取り込み、次にそのネットワークを通して、各階層の人々と交流をもち、文化面に留まらず、行政面でも交流を持つようになっていった。地域住民がとった次なる行動は、地元の史蹟や名勝地に植樹などを行い、我が地域の名所を演出、石碑の建立や句集、地誌などの刊行を通して、それを知らしめ、宣伝していった。こうした「地域文化の自立」によって、現在でも続く、その地域が持っている独自の文化が花開いていったのである。また、その文化を広める情報面においても、読み書きを覚えた江戸っ子たちは、時には意図的に流された、為政者側の情報を鵜呑みにせず、自らの知識をもって主体的に収集、現実を直視しようとしたのも、江戸後期から幕末にかけてである。例えば、嘉永6年(1853)ペリー来航においても、膨大な情報に対し、江戸っ子たちは実際に黒船を見に行ったり、書店で資料を求め、地域秩序の維持を通して、その正確な情報、分析が、彼らの次なる行動をなす上での、重要な判断材料となっていったのである。
御隠居さまの稽古、習い事は今でいう「生涯学習」である。生涯学習とは、人々が生涯に行うあらゆる学習、即ち学校教育、社会教育、文化・スポーツ活動、趣味などの機会を通して行われる学習の意味で用いられている。文字通り生涯に渡って行う学習活動をいい、英訳すると、Lifelong learning(education).文科省によるとその意義は、㋑社会、経済の変化に対応するための人材育成、㋺自由時間の利用による地域の活性化、㋩学歴社会の是生だとしている。こうしてみると、生涯学習は65歳以上を対象にした老化防止、空き時間の有効利用、萎みかけた脳細胞の活性化によるボケ防止に留まらず。一生涯を通した自己啓発の学習という事になる。人生は老後から始まる訳ではない。オギヤァと生れた時から始まっている。1歳から小学校入学前の6歳時までは、脳細胞の活動も柔軟で、好奇心も旺盛、言語能力や身体能力が発達、大脳神経系の約80%が形成されるといわれる。従って、この時期に受ける教育は、生涯に渡る人格や能力の基礎を身につける事になる。これから決して明るい未来が約束されている訳でもない、近未来のデフェンスなると思われる。子供たちが健全に育つという事は、とりもなおさずその父母、家族の幸せにつながり、マクロ的には国家的利益につながる。北欧諸国ではこの観点に基づき、「幼児教育」に力を入れているという。我が国でも少し固まりかけた、御隠居の学習(ケア)も大事であるが、これから債務の多い我が国を担う、いや世界を担う人間を育てるべく、国を始め地方自治体は、選挙をあてにした老人ケアに留まらず、また、子供の日を単なるGWの1日と考えず、幼児教育に65歳以上の御隠居さま以上に、知恵と時間と予算を使うべきだと思うが、如何であろうか。さて、現代の御隠居さま(高齢者)には、いろいろなタイプがある。㋑人生の過去を後悔せず、未来に対し希望をもつ「円熟型」㋺現実を受け入れ、周りを頼り安楽に暮そうとする「外部依存型」㋩若い時代の生活を維持しようとし、老化を認めたくない「防衛型」㊁人生の失敗を他人のせいにし、老後の人生を楽しめない「憤慨型」㋭人生は失敗だったと考え、自分がいたらなかったと自己を責め、足るを知らない「自責型」などがある。さて、近未来の、また現在令和の御隠居さまたちは、どのタイプに入ると考えるであろうか?自分がどのタイプであろうが、物は考えようでいくらでも変わる。少なくとも、江戸の御隠居さまたちは、明るく前向きで、足るを知っていた。
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