<江戸メデカルレポート> 薮の薮たる所以


 少しずつ終息に向かっている様な、いないような、もうすぐ6月の空、まだまだコロナ火はくすぶり燃えひろがっている。今回は長きにわたり、また、これからも過酷な現場が待っている、医療関係の皆様に感謝の意をこめて、江戸の頃の医療、どうだったの?と、さらっと覗いてみる事にする。

 自分が名乗れば医者になれた医者には勿論、薬まで高くて当てにならなかった江戸時代、医療対策として庶民はどうしても民間療法か神だのみ、一時しのぎ的に希望的観測もこめて、疾病という「厄」から逃れようとした。現代では先ず病院へ行って診察、入院か、薬を飲んで回復に努め、それでも駄目なら昔からの民間療法、高い薬を買わされて、それも効かないと、最後の手段、「苦しい時の神だのみ」となるが、江戸時代ではこのレシピは全く逆であった。ヤバイなと感じたら先ず霊験あらたかな神社の御札を頂き、家の目立つ所に貼り、一生懸命祈願する。それも余り期待できないとなると、生薬か調剤された薬を飲み、大人しく回復を待つ。自称医者の出番は、最後の最後であった。往古より日本に伝わって来た祭事や節句も、長く元気で丈夫で生きたいという願望の表れがそうした行事につながり、受け継がれてきた。人々は人日には七草粥を食べ、正月で疲れた胃を癒し、ひいな祭りには人形に託して身の穢れを流し、端午の節句になると、菖蒲湯に入って身体を清めた。、夏の七夕は五色の短冊に、家族や好きな人の健康を願い、愛が時空を超えて実る様に星空に願った。秋は菊(重陽)の節句、菊の花にかぶせておいた、朝露を含んだ真綿で身体を拭い、1年の無病息災を祈り、1年1年を過して来たのである。

 江戸の療法は、現代医学が痛みなど、患者が訴える原因を探り、その原因となるものを除去し、治癒に結びつける方法とは異なり。表面的な症状をおさえる「対症療法」が主流をなし、痛みを和らげ、患者の自然治癒力に期待した。つまり、原因となっている病巣を取り除き完治させる事ではなかった。江戸期は分野によって漢方医と蘭方医に分かれ、治療患者により、朝廷や幕府に仕えた医師、各藩に勤める藩医、一部では免許を持たない町医に分けられた。専門は本道(内科)外科、女医者(産婦人科)眼科、小児科。幕府医官は御典医とも御近習医師「御匙」ともよばれた。御匙とは、将軍から薬の調合をするための、銀の匙を拝領された医官である。ここで諺のお勉強 「匙を投げる」とは、回復の見込みがない患者の治療をあきらめる事で、「匙加減」とは、本来の意味は治療 手加減を加える事、転じて、回復見込みのない患者を、他の医療機関へ回す(タライ回し)為も医者の匙加減といわれた。

 「医」は「醫」とも書いた。下の「酉」が「坐」とも解釈され、坐女を意味したとされ、医学の起源は宗教的な事と関係していた事が伺がわれる。免許もない自己申告の江戸期の医者は、「薮医者は 一人生かして 一人死に」「病人の 方で薮医の 匙を投げ」とまで詠まれた。さて、本題、「薮医者」の語源はいくつかある。①薬を使うと同時に呪術、祈祷などを用いる野坐(やぶ)医者 ②高価な薬が買えないから、薮の中から草や根を彫ってきて調剤した薮医者、その中で有効なものを見つけ出す者は、名医とされた。③「薮をつついて蛇をだす」余計な事をして、事態(症状)を余計悪化させた ④似て非なる物に、薮茗荷など薮の字を充てた。転じて腕が悪くて患者が来ない医者を薮といった。最も説得性のある説は⑤芭蕉の弟子、森川許六が編纂した「風俗文選」によると、但馬国(兵庫県)に「養父(やぶ)」という地名がある。そこに死にかけた患者さえも蘇生させるという名医がいた。その名医に沢山の弟子が集まってきた。養父と云えば名医の代名詞となった。が、いつの世もそれに便乗する輩が出てくる。「名」だけの「名医」が誕生した。「薮」の真の誕生秘話である。医者を詠んだ川柳は沢山ある。コロナに頑張っているドクターには失礼だが、納得充分の読みごたえである。

「仁義より 礼の字を 医者大事がり」(馬琴の八犬伝をもじっている)

「流行医者 世辞軽薄を 二味加え」(世辞も技の内?)

「薮医者は そのくせうるさく 多言也」 (幇医者、仲人医者ともいわれた)

「俄医者 三丁目で みた男」 (薬種問屋が多い本町三丁目である)

「皆な見放しに 薮医の頼もしさ」 (もう誰でもいい助けての心境である)

 江戸時代、以上の方々はごく一部で、水戸徳川家の藩医が編纂した「救民妙薬」には、領民に対し薬の用い方を付箋にまとめ、即対応出来る様まとめられていたし、また「医は不仁の術 務めて仁ならんと欲す」津藩医 大沢雲沢と、「医はどうあるべきか」に真摯に立ち向かっていた医師は沢山いた。

               


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